総合的な工学教育システムを背景にしたデータ思考力の涵養(数理・データサイエンス・AI教育プログラム)
◆本校プログラム名称
総合的な工学教育システムを背景にしたデータ思考力の涵養※
大阪公立大学高専では、平成28年度から実施してきた教育プログラムが、令和2年度に完成しました。この教育プログラムは、本校に入学するすべての学生に対し、リテラシーレベルの数理・データサイエンス・AI教育プログラムを本校本科生の「卒業時に身につけるべき学力や資質・能力」の本科達成目標に基づき実施しています。
※本プログラムは、文部科学省 数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)に認定されています。(認定の有効期限:令和8年3月31日まで)
◆取組概要
DX:Digital Transformationには、人が織りなす社会の仕組みやその変化を実際の産業現場と照らし合わせて思考する「人文系現場力」と理数科目を基礎とした論理的思考に基づく情報処理を実際の産業界のニーズに沿って開発する「数理系開発力」の双方の力を発揮して、種々の事象を総合的に俯瞰し理解できる素養の育成が必須であると、大阪公立大学高専(以下、本校)は考えています。
そこで、本校は、平成28年度から「現代社会」という人文科目において、世界規模の環境問題や日本国内の少子高齢化問題等のリアルな問題を新聞紙面等を活用し学ぶ科目をスタートしました。また、ものづくりに関わる企画・設計・生産を総合的に考え、実践できる技術者育成のため「インターンシップ」という体験型科目の履修も奨励しています。そこでは、地域未来牽引企業の経営者を招聘講師として産業界ニーズを学生に直接伝えています。
そのような取組が令和2年度に完成したので、教育プログラム化しました。
この教育プログラムは、その現代社会などの人文科目をベースに、インターンシップという経験学習を中核とした、総合的な工学教育システムを背景にした、データ思考力を持つエンジニア育成を行うものとなっています。 |
◆本プログラムの概念図
◆実施体制
委員会・組織等 | 役割 |
教務担当副校長 | 運営責任者 |
大阪公立大学工業高等専門学校運営会議 | プログラムを改善・進化 |
公立大学法人大阪大阪公立大学工業高等専門学校運営審議会 | プログラムの自己点検・評価 |
◆事業計画
◆学生等が身に付けられる能力等
本プログラムを学修することにより、人間の社会活動において多様な形でデータが利活用されていることを理解し、それらの利活用が産業界の生産現場等でも求められており、その現場の生産性を高めるDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の推進に協働できるDX人材に必要な情報スキルやコミュニケーションスキルおよびICT能力に対するリテラシーレベルの素養を身につけることができる。
◆修了要件
プログラムを構成する「基礎科目群(下記1~21)」の全21科目39単位および「専門教育科目群(下記22~23)」の全2科目3単位の合計23科目42単位をすべて履修し、修得すること。
◆授業科目名称
授業科目名称 | |
1 | 現代社会 |
2 | 企業経営 |
3 | インターンシップ |
4 | 総合工学システム概論 |
5 | 環境科学概論Ⅰ |
6 | 物資科学 |
7 | 技術倫理 |
8 | 法と経済 |
9 | 微分積分a |
10 | 微分積分b |
11 | ベクトル・行列 |
12 | 解析a |
13 | 解析b |
14 | 線形代数・微分方程式 |
15 | 情報 |
16 | 応用数学Ⅰ |
17 | 応用数学Ⅱ |
18 | 環境科学概論Ⅱ |
19 | 総合工学実験実習Ⅰ |
20 | 総合工学実験実習Ⅱ |
21 | 情報処理Ⅰ |
22 | 情報処理Ⅱ |
23 | 数値計算 |
◆実施科目およびモデルカリキュラムとの対応
数理・データサイエンス教育拠点コンソーシアムのモデルカリキュラム(リテラシーレベル)と本校の教育プログラムの対応関係は以下の通りです。
①プログラムを構成する授業の内容・概要(数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラムの「導入」、「基礎」、「心得」に相当)
(1)現在進行中の社会変化(第4次産業革命、Society 5.0、データ駆動型社会等)に深く寄与しているものであり、それが自らの生活と密接に結びついている
授業概要 | |
技術者あるいは科学者として働くことを前提として、総合的に工学システムを概観できる素養を身につけることを基本とする。また、Society5.0の実現を目指す企業では、ものづくり技術のみでなく、社会経済構造の変容や、市場の仕組みの変化に対応することが求められるので、総合工学システム概論、現代社会の講義科目を通じて、IoT/AI/データサイエンスをベースにしたDX化の必要性を理解させる。 これら科目群(下表3科目)の授業を通して、IoT/AI/データサイエンス技術が、社会を変革する基盤技術であり、次世代技術者として必要不可欠の知識・技術であることを、体感的に理解させることを目指す。 これにより、主として数理・データサイエンス・AIを活用することの「楽しさ」や「学ぶことへの意義」を重点的に教育する。 |
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授業科目名称 | 講義テーマ |
現代社会 | 経済社会の変容、市場のしくみ、現代の企業 |
企業経営 | 技術経営の目的 |
総合工学システム概論 | 働くこと |
(2)「社会で活用されているデータ」や「データの活用領域」は非常に広範囲であって、日常生活や社会の課題を解決する有用なツールになり得るもの
授業概要 | |
データ戦略への意識付け、データ活用を主眼として、数理的に社会システムを概観できる素養を身に付けさせる。総合工学システム概論の電子情報系分野の講義と現代社会において、人口動態の変容やその影響の仕組みや変化に対応する方策を、DX化することで、課題解決へと導く素養・能力を取得させる。インターンシップの事前教育で、企業経営者から企業活動の実情を拝聴し、技術を活用した経営を学ぶことで、Society5.0やデータ駆動型社会を実現できる技術的能力と人間的素養を涵養する。さらに、インターンシップを通じて、データ戦略への意識付けおよびデータ活用を体感的に経験させる。 科目群(下表3科目)を通して、社会情勢とそれらに関わるデータが、日常生活や社会課題を解決する有用なツールになることを体感的に理解させ、主として「人間中心の適切な判断ができ、自らの意識でAI等の恩恵を受け、これらを利活用できるツール活用力」を重点的に教育する。 |
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授業科目名称 | 講義テーマ |
総合工学システム概論 | 電子情報系分野の講義 |
現代社会 | かぎりある資源とエネルギー、少子高齢化社会 |
インターンシップ | ガイダンスと事前教育 |
(3)様々なデータ利活用の現場におけるデータ利活用事例が示され、様々な適用領域(流通、製造、金融、サービス、インフラ、公共、ヘルスケア等)の知見と組み合わせることで価値を創出するもの
授業概要 | |
データが実活用されている現場を俯瞰し応用への目利き力を養成することを主眼として、人文・社会システムを構成する様々な適用分野の現状を把握させる。現代社会、環境科学概論Ⅰ、物質科学においては、地球環境問題と生命科学をベースにして、個々の適用分野における知見を組み合わせることで、新たな価値を生み出す能力を身に付けさせる。インターンシップを通して、企業、技術と社会問題との関わりを職業体験を経ることで、体感的に経験させる。 科目群(下表5科目)を通して社会全体が関わる地球規模での環境問題とDNAレベルでの生命についての利活用と知見との組合せが、新たな価値を生み出すことを体感的に理解させる。 これにより、「多様化する社会課題を、数理・データサイエンス・AIを活用することで、流動的に解決できる能力を持つ学生を育成し、自他を含めて、生涯学習への動機づけ、学びの相乗効果を生み出す持続発展的学習力」を重点的に教育する。 |
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授業科目名称 | 講義テーマ |
環境科学概論I | 大気汚染と対策、水質汚濁と対策、脱炭素社会 |
物質科学 | 環境と物質、物質と生命 |
インターンシップ | 研修先における実務体験 |
現代社会 | 地球環境問題への取り組み |
総合工学実験実習I | 細胞からのDNA抽出 |
(4)活用に当たっての様々な留意事項(ELSI、個人情報、データ倫理、AI社会原則等)を考慮し、情報セキュリティや情報漏洩等、データを守る上での留意事項への理解をする
授業概要 | |
データが利活用される現場において、個人情報の扱いなどが、倫理的、法的、社会的課題を伴うことを考慮できる素養を技術倫理、法と経済および現代社会という講義科目で学び、さらに、情報セキュリティや情報漏洩等のデータを守ることができる素養を、環境科学概論Ⅱ、情報、企業経営という講義科目で育成する。 このように、これら科目群(下表6科目)の授業を通して、データ駆動型社会のリスク、およびデータ・AIを活用する際に発生する問題点を、主体的に考えることができるリスク予見能力の涵養を育成する。 これにより、主として「数理・データサイエンス・AIを活用したデータ駆動型社会が内包するリスクを自主的に予見できる能力の育成」を重点的、かつ自主的に学ばせる。 |
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授業科目名称 | 講義テーマ |
技術倫理 | 技術と倫理、事例研究 |
法と経済 | ゲーム理論 |
環境科学概論II | 情報伝達と恒常性 |
情報 | 情報セキュリティ |
現代社会 | 科学技術の発達と生命倫理、高度情報化社会と情報倫理 |
企業経営 | 企業の社会的責任とコーポレートガバナンス |
(5)実データ・実課題(学術データ等を含む)を用いた演習など、社会での実例を題材として、「データを読む、説明する、扱う」といった数理・データサイエンス・AIの基本的な活用法に関するもの
授業概要 | |
データを利活用するために不可欠な数理的思考能力を、演習を伴う数学系科目(微積分a・b、ベクトル・行列、解析a・b、線形代数・微分方程式、応用数学Ⅰ・Ⅱ)で学ばせる。また、データを正しく取り扱う技能を取得させるため、プログラミング演習を伴う情報、情報処理Ⅰ の講義科目で学ばせる。さらに、総合工学実験実習Ⅱでは、自らの科学実験により得られる実データを使って、そのデータ処理とグラフ等による可視化を、体験的学習形式として実践させる。 このように、これら科目群(下表11科目)の講義および実験実習科目を通して、データ駆動型社会に不可欠なプログラミング的思考およびプログラミングスキルの獲得と習熟を目指す。 これにより、主として「数理・データサイエンス・AIを日常の生活、仕事等の場所で使いこなすことができる基礎的情報処理能力の素養の獲得」を重点的に教育する。 |
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授業科目名称 | 講義テーマ |
情報 | 情報基礎、表計算ソフトウェアの利用 |
情報処理I | Cプログラム |
微分積分a | 微分法、微分法の応用 |
微分積分b | いろいろな関数の微分法、微分法の応用 |
ベクトル・行列 | 行列、行列式の性質 |
解析a | 関数の展開 |
解析b | 偏導関数、偏導関数の応用 |
線形代数・微分方程式 | 正方行列の固有値と対角化 |
応用数学I | ベクトル解析 |
応用数学II | 確率変数と確率分布 |
総合工学実験実習II | データ処理とグラフへの整理 |
②プログラムを構成する授業の内容・概要(数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラムの「選択」に相当)
授業に含まれている内容・要素 | 授業科目名称 |
統計及び数理基礎 | 数値計算 |
アルゴリズム基礎 | 情報処理Ⅱ |
データ構造とプログラミング基礎 | 情報処理Ⅱ、数値計算 |
時系列データ解析 | 数値計算 |
データハンドリング | 情報処理Ⅱ |
データ活用実践(教師あり学習) | 情報処理Ⅱ、数値計算 |
◆自己点検・評価結果
認定制度の審査項目 | 点検・評価結果 | |
<学内からの視点・取組> | ||
① | 教育プログラムの履修・修得状況、学修成果に関する事項 | 良好 |
② | 学生アンケート等を通じた、学生の内容の理解度に関する事項 | 良好 |
③ | 内容・水準を維持・向上しつつ、より「分かりやすい」授業とする取組 | 良好 |
<学外からの視点> | ||
④ | 産業界からの視点を含めた教育プログラム内容・手法等への意見 | 要改善 |
⑤ | 教育プログラム修了者の進路・活躍状況、企業等の評価に関する事項 | 2024年度実施予定 |
※2024/7/19(金)に開催した公立大学法人大阪大阪公立大学工業高等専門学校運営審議会において、本プログラムの運営責任者である教務担当副校長より、外部委員を含めた運営審議会委員に点検・評価結果の説明を行い、了承されました。